生存戦略模索blog

うつ病、発達障害から退職した元公務員が人生の再構築を模索するブログ

犯罪と精神疾患 元名大生タリウム殺人事件について思う

おはようございます、umashikaです

 

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容疑者の「刑事責任能力」とは 心神喪失者はなぜ無罪? /早稲田塾講師 坂東太郎のよくわかる時事用語 | THE PAGE(ザ・ページ)

 

精神障害者発達障害者への無用な誤解が生じないように願う

元名古屋大生が起こした殺人事件と殺人未遂事件

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 昨日、テレビを観ていたところ気になる事件が報道されていたので、その件について感じたことを書きます。

www.yomiuri.co.jp

 覚えていらっしゃる方も多いと思いますが、2014年に元名古屋大学生の女性が、宗教の勧誘を通して知り合った知人の70代の女性を斧で殺害したとして殺人の罪に問われている事件です。さらに、この容疑者は高校生だった時に、同じ学校に通う同級生に劇物である「タリウム」を飲料に混ぜて飲ませ、殺害しようとした殺人未遂にも問われています。

 

 昨日、この事件についての裁判員裁判名古屋地方裁判所で行われたということです。

 

 報道によれば、弁護側と検察側でこの被告人の責任能力を巡って、全面的に対立しているといいます。女子学生及び弁護側は、殺意を否認したうえ、犯行当時「女子学生は発達障害躁うつ病のそう状態で善悪の判断ができず、行動をコントロールできない状態だった」とし、全ての事件で無罪を主張しています。

 

 一方、検察側は「殺害には計画性があり、犯行後は凶器の斧を隠すなど隠ぺい工作を行っており、これらの行動が責任能力を裏付ける。」としています。

 

そもそもなぜ、精神疾患などに罹患していれば罪に問えないのか

https://card-book.biz/upload_image/J3tfwAbv1467014080.jpg

犯罪の成立要件【Cardbook】

 

 殺人事件などの凶悪な犯罪の裁判について報道がある度に、頻繁に「弁護側は『被告人は犯罪実行当時、精神疾患に罹患しており、善悪の判断が出来ず責任能力がなかった』と主張している。」というフレーズを耳にすると思います。 

 

 刑法39条

 1項 心神喪失者の行為は、罰しない。

 2項 心神耗弱者の行為は、その刑を減刑する。

と、規定しています。

 

 心神喪失とは、「精神の障害により事の是非善悪を弁識する能力(事理弁識能力)又はそれに従って行動する能力(行動制御能力)が失われた状態をいいます。

 また、心神耗弱とは、「精神の障害により事の是非善悪を弁識する能力(事理弁識能力)又はそれに従って行動する能力(行動制御能力)が著しく減退している状態」をいいます。

 

 つまり、心神喪失の場合は全く「責任能力がない」状態であり、心神耗弱は「責任能力がないわけではないけれども、限定的」である状態になります。

 

 そして、犯罪の成立要件を検討するにあたっては、次の順序で検討し、全てに該当する時に初めて、罪に問えることになります。

  1. 構成要件該当性:形式的かつ類型的に、刑法に罪名のある罪にあたるかを検討
  2. 違法性:個別的・具体的にその行為が違法といえるか検討
  3. 責任:個別的・具体的に責任を問えるかを検討 

 1について、犯人が殺意をもって、斧で人を殺害する行為は、刑法199条が「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。」と規定していますので、形式的・類型的に見ればこれに該当します(殺人罪の構成要件に該当する)。

 2について、仮に犯人の行為が、「殺害した相手が突然ナイフで切りかかってきたので、側にあった斧を咄嗟に取り出して殺害してしまった」ということであれば、正当防衛に該当する可能性があり、形式的・類型的には違法といえる行為であっても、具体的には違法性がないことになります。

 3について、仮に、犯人の行為が1と2の要件を満たす場合であっても、犯人が犯行当時何らかの精神疾患に罹患しており、そのために「心神喪失」の状態にあれば、責任能力が全くないことになります。

 

 今回の事件については、弁護側は「3の要件を満たさない」として、被告人に全く責任を問えないと主張しているということです。

 

発達障害躁うつ病だから罪に問えないわけではない

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 じゃあ、何でもかんでも殺したやつが「精神障害者」や「発達障害者」であれば、「キチ〇イ無罪」で罪に問えないのか!と言えば、そうではありません。

 

 あくまでも「責任があるかないか」の判断は、上述のとおり「個別具体的」に判断されますので、精神障害発達障害だからといって、必ず無罪や罪が軽減されることにはなりません。

 

 弁護人も仕事上、被告人に有利になるように弁護しなければならないですし(被告人に不利な主張は出来ない。)、少々苦しいけど被告人を救済するには精神疾患というしかない、というところでしょう。あとは裁判所の判断を待つことになります。

 

精神障害発達障害に対する誤解が広がらないよう願う

 刑法39条の存在についての是非については議論があるところですが、今回の事件のように「責任能力が焦点」と報道される度にネット上では「絶対死刑にしろ」とか「弁護士ありえない」など、暴力的な言葉が飛び交うのを目にすると、「被告人が発達障害である」と安易に報道するのは、無用な誤解を生まないか心配になります。

 

 別にほとんどの発達障害精神障害の方は犯罪を犯さないですし、これは一般の人と同じです。

 

 事実に基づいた中立な報道はいうまでもなく重要ではありますが、時には報道されることによって、大きく社会的な利益が損なわれることもあるということを、考えて欲しいと思います。

 

 本日もお付き合いくださり、ありがとうございました。